【フリーランス医師】常勤医師との給与比較やメリット・デメリット、実際の勤務事例

「フリーランス医師」という言葉は、2004年(平成16年)から新しい臨床研修制度が始まった事により、その後徐々に広まってきました。
また近年では、女性医師の増加やテレビドラマの影響も少なからず広まった原因の一つではないでしょうか。

ちなみに、ここで言う「フリーランス医師」とは、大学医局に属さず、正規雇用者ではない(常勤先を持たない)、定期非常勤やスポット勤務などのアルバイトのみで勤務している医師の事を指します。

これまで私共【精神科医の転職相談室】へも、現職場を辞める際「今後は定期非常勤の掛け持ちだけで働いていきたい。」「今後は非常勤のみで負担を少なく働いていきたい。」というご相談を頂く事が多数ありました。

そこで今回はフリーランス医師として働く上で、常勤医師との給与比較やメリット・デメリットについて解説していきます。
また併せて、実際にフリーランス医師として働いている先生方の事例も交えて紹介させていただきます。

常勤医師とフリーランス医師の給与比較

初めに常勤医師との給与比較をしていきます。
※ここでは、これまで弊社へご相談いらした精神科医師500人を対象にしたデータを基に比較します。

まず弊社へご相談、お問い合わせを頂いた時点での精神科医師(常勤)の平均年収を見てみますと、1393万円というデータが出ています。
こちらについては以下の記事でも紹介をしております。


ではこの精神科医の平均年収1393万円と比較をしていきます。
フリーランスの場合、主に日給と時給という給与提示がありますが、今回は時給で一般的な額の10,000円から試算します。

あくまで試算上ですが、非常勤のみで週4日の勤務からフリーランス医師の年収が常勤医師の平均年収を上回りました。
給与という観点だけで見ると、週4日勤務以上であればフリーランス医師の方が良いという事が言えます。

※上記の時給については、診療内容や施設区分、またエリアによって変わります。

フリーランス医師になった理由とは?

では、何故フリーランス医師としての働き方を選択する先生方がいらっしゃるのか?
ここではその理由について触れていきます。

過去【精神科医の転職相談室】へ先生方のお声を整理しますと以下の通りです。

■「組織には属さず、非常勤として気楽に働きたい。」
■「家族の介護が必要な為、常勤ほどの日数・時間は勤務が出来ない。」
■「家族との時間(子育てなど)を増やす為、仕事はセーブしている。」
■「出来るだけ拘束される時間を減らして、趣味に費やす時間を増やしたい。」
■「常勤医師よりも1日の給与額の割が良い為。」
■「急な呼び出しや当直をしたくない。」
■「余計な深い人間関係を作りたくない。」
■「様々な勤務内容や多くの医療機関で同時に働き、今後の常勤先を定める為。」

以上の声が挙がっております。
このような理由やメリットを優先し、ご勤務されている先生方が多いのです。
※フリーランスのメリット・デメリットの詳細については後程 紹介します。

フリーランス医師の男女比

続いて男女比を見ていきましょう。

(※弊社へご相談いらした先生方(過去5年間)のデータをもとに算出しております)

女性医師が男性医師の2倍以上の割合を占めています。
理由としては上記でもあるように、ご家庭の事情やお子様の事情という事があり、定期非常勤やスポット勤務の掛け持ちを続けている女性医師が多くなっています。

女性の場合、お子様の事情というのは、医師に限らずとも今後の働き方について立ち止まって考える時期です。
お子様の関係で「今後はフリーランス」という働き方を検討される先生は多いのですが、フリーランスでなくとも常勤として「女性医師に配慮のある病院」や「週4日勤務で当直は免除」「時短勤務が許されるところ」というご希望を挙げる先生方は多いのです。

比率として、男性医師よりも女性医師の方が子育てやご家庭の事情に左右されるケースが多い事からも、ライフステージによって特にオフの方の確保は重要だと言えます。

フリーランス医師として働く前に

ここまで読んでいただけたのであれば、フリーランスの方が良いという印象が強くなってしまったかもしれませんが、実は一概にそうとは言い切れません。
特に今、常勤先がある先生にとっては、フリーランスのメリットばかりを見て、安易に現職場を辞めてしまうのは「待った!」です。

フリーランスになるにあたって、事前に是非とも共有しておきたい事がありますので、参考にしていただければ幸いです。

メリット・デメリット

ではまずフリーランス医師のメリット・デメリットを見ていきます。

メリット

■自分の好きな都合で仕事が出来る。
>先生のキャパシティの中で勤務日を増やしたり減らしたりと調整が出来ます。

■常勤医師よりも1日の給与割合が良い。
>時給と日給で常勤医師よりも給与額が高い傾向にある為、常勤医師よりも非常勤の掛け持ち勤務の方が、トータルの給与が高くなる可能性が高いです。

■複数の医療機関の分だけ、医療機関毎のやり方や方針に触れる事が出来る。
>多くの医療機関のやり方はそのまま先生の経験値になる事もあります。また、将来開業を考えている先生にとっても良い経験となります。

■掛け持ち数が多いほど、様々な先生方とのパイプを持てる可能性があり、人脈が広がる。
>非常勤の掛け持ち勤務は、それぞれでご勤務されている先生方とパイプを作るチャンスでもあります。

■当直やオンコールから解放される。
>(当直やオンコールを希望しない先生にとっては)非常勤医師というお立場から強制力はなくなります。

デメリット

■安定した収入が得られない
>非常勤医師は、常勤医師の入職状況や病院の方針によって契約を切られてしまう可能性が高いです。
特に非常勤の先生方を多く抱えている医療機関は注意が必要です。
実際に医療機関の事務長が「非常勤医師が多い為、常勤医師の採用が出来次第、整理していきたい。」という声は複数あります。
また体調不良やご都合などでお休みを取った際には、その分給与が減ります。

■社会的信用を得難い
>例えば住宅ローン審査の際には、(医師であることに加え)安定した正職員であれば、銀行から最高クラスの信用と金利優遇を受ける事が出来ますが、フリーランスという事でその信用は得難くなります。
また転職時に採用側が先生の経歴を見た際、非常勤のみで働いている期間が長い程「何故!?」という目で見られてしまう為、転職時には不利になる事もあります。

■保険と税金の手続き
>常勤医師の社会保険加入は必須となりますので、先生ご自身でお支払やお手続きをする必要はないですが、非常勤医師はご自身で国保に入り、手続きをしなければなりません。
また税金の手続きも先生ご自身で行なう必要があります。

■勤務時間の短縮や休み取得の際の調整がし難い
>非常勤医師だからこそ決まった枠があり、その枠内での勤務時間短縮や休み取得が常勤医に比べ難しいです。
非常勤医師は全体の勤務コントロールは出来ますが、勤務後にはその枠内での柔軟な働き方が出来ない立場です。

■福利厚生が受けられない
>医療機関にもよりますが、常勤医師には借上げ社宅契約をしてもらえたり、家賃の補助があったり、学会出席への手当があったりしますが、その待遇が非常勤医師にはありません。
福利厚生の手厚い待遇などを受けられない事により、結果的に非常勤医師の方が負担が大きくなってしまう事があります。

■専門医の更新がし難くなる
>学会の専門医更新は、常勤医師としてご勤務している先生方に絞られるような動きも出てきています。
今後も専門医や指導医の更新をお考えの先生は、何処かの医療機関の常勤である事に越した事はありません。

■ある程度の経験年数が必要
>フリーランス医師はスキルの維持は出来ても、スキルの向上は難しい為、医師免許の取得から10年以上がベターです。

如何でしょうか?
以上のように、案外デメリットも多いのです。

メリットもあるのですが、デメリットもしっかりと理解された上で、フリーランス医師への進路について検討していただきたいと思っております。

フリーランスに向いている医師、向いていない医師

では、どのような先生がフリーランス医師に向いているのか、また向いていないのかを先生方のお考えやご希望を基に見ていきましょう。

向いている医師

■自身の体調や家族の都合等でどうしても常勤程の勤務が出来ない先生
■収入の安定は絶対条件ではないという先生
■指定医や専門医の取得・更新、また今後のスキル向上は考えていない先生
■開業資金集め等の理由から短期集中で稼ぎたい先生
■医師以外にセカンドキャリアを考えている先生

向いていない医師

■安定した収入を得たい先生
■スキルの向上や指定医、専門医の取得・更新をしていきたい先生
■学会や院外の活動にも積極的に参加したい先生
■保険や税金の手続きなどが面倒でやりたくない先生
■初期研修が終わって間もない先生(もしくは医師免許取得10年未満の先生)
■転職をする事も含め、医師として長年勤務する事を考えている先生

また精神科に拘らず、医療全体をマクロ的な視点で見てみると、以前はフリーランス医師に向いていると言われる科がありました。

それは麻酔科です。
実際に一時期、麻酔科医のフリーランス医師は増加しました。
理由は麻酔科医の給与額が高騰したという事もありますが、科として手術に携わるのは1回完結であり、このような働き方が麻酔科という科の特性と非常にマッチしていたからです。
(現在は、新専門医制度が始まって以来、新しい専門医の更新条件から麻酔科医のフリーランス医師は減少しています。)

以上のように、以前は科によってもフリーランス医師に向いている/向いていないという事がより明確になっていたように思います。
ただ、精神科医師については、長期間患者様やご家族とお付き合いが生まれるケースが多い為、長期的に診れるような環境の方が、精神医療という観点から良いと言えるのは間違いありません。

業務(定期非常勤)の内容比率

ここでは定期非常勤先として、どのような業務内容を先生方がされているのか比率と共に紹介をします。
(フリーランス医師に問わず、集計をしております。)

(※弊社へご相談いらした先生方(過去5年間)のデータをもとに算出しております)

多くの先生が、メンタルクリニックでの外来を行なっているという結果が出ました。
メンタルクリニックでの外来は、「給与額が比較的良い」という理由もあるようですが、普段は病院で勤務している先生が多い為、経験値という観点から勤務方針や雰囲気の違うクリニックを求める事もあるようです。
中には「外来に集中出来る環境が良い」という理由も挙がっています。

また、近年増加傾向にあるのが、精神科分野の訪問診療です。
訪問診療と聞くと内科をイメージしますが、病院の病棟縮小と共に、高齢化による認知症患者の増加が精神科分野の訪問診療案件が増えた要因です。
勤務理由としては、「比較的給与額が良かった」という理由の他に、「訪問診療に興味があった」「訪問診療の経験値は今後必要になると思った」等の理由も挙がっています。

企業の嘱託産業医については、企業(50人以上の規模)のストレスチェックが義務化された事から、メンタルのサポート医として精神科医師のニーズが高くなりました。
そして、それに合わせて精神科の先生方からのニーズも増えたのですが、案件としてはまだまだ少なく、また訪問先が遠方である事や産業医経験者が優遇されるという勤務ハードルがある為、先生方からのニーズの割に比率としては伸びていません。

また精神科は他科からの転科がしやすい科という事もある為、転科前の外来等の勤務をされている先生方も一定数いらっしゃいます。
中には将来的に元の科目に戻り、メンタル面も診れる総合医としての勤務を望まれている先生方も上記比率には含まれています。

フリーランス医師の勤務事例

では最後に、実際にフリーランスとして勤務している先生方の事例を見ていきます。

事例1:女性・46歳の医師のケース

夫が民間病院で勤務している医師の為、自身は負担の少ない週3日のフリーランスとして勤務。年収は1200万円程。
うち週2日は同じクリニックにて外来を担当、もう1日は他クリニックにて訪問診療(施設メイン)を行なっている。
フリーランス医師になった理由は、夫の収入が安定している事と自身はそれほど仕事に対して熱量がない為。
子供はいない為、今後もしばらくは同じような働き方をしていく予定だが、勤務日数は減らす事はあっても、増やす予定はない。

事例2:男性・34歳の医師のケース

大学医局に属して、精神保健指定医と専門医(精神神経学会)を取得したが、人間関係に疲れて医局を退局。
その後、特に勤務先は決めていなかった為、週4日のフリーランス医師として勤務。
週2日は慢性期病院にて外来と病棟勤務、もう1日はメンタルクリニックにて外来、残りの1日も他のクリニックにて外来を行なっている。年収は1500万円程。
何となくこれまでフリーランスとして働いてきたが、知り合いの医師からの話や影響を受けて、1年内には民間病院で常勤医への復帰を考えている。

事例3:女性・39歳の医師のケース

二人目の子供の育児があり、週3日のフリーランス医師として勤務。
週3日は元々の常勤先であった病院で勤務日数を減らした状況で勤務している。
子供の事で急な休みを取らなければならない可能性もあり、外来枠には入っておらず、病棟管理のみの勤務。年収は1000万円程。
勤務していた病院での非常勤の為、特に大きなストレスは無く勤務を続けている。
育児が落ち着いてからは、常勤復帰も検討している。

事例4:女性・41歳の医師のケース

夫は一般企業にて勤務しており、自身は母親の持病(介護)の為、週2日のフリーランス医師として勤務。
週1日はクリニックにて訪問診療、もう1日は以前勤務していた総合病院にて専門外来(もの忘れ外来)を行なっている。年収は800万円弱。
過去に常勤として働く事も考えたが、残念ながら通勤圏内で自身の環境に理解を示してくれる病院は無く、しばらくこのままの環境で勤務を続けていくつもりでいる。

事例5:男性・34歳の医師のケース

大学医局を退局し、メンタルクリニックにて勤務していたが、自身の方向性を探るべく、フリーランス医師に転身。
週3日は同じメンタルクリニックにて外来、もう1日は総合病院にてリエゾン、また月に1~2回の産業医(嘱託)として企業の事業所へ行っている。年収は1900万円程。
今後は外来の勤務を減らし、興味のあった訪問診療の勤務を入れようかと考えている。

事例6:男性・48歳の医師のケース

漠然と開業してみたいという思いはあったが、これまでなかなか行動を起こす事が出来なかった。
その後、友人の話をキッカケに50歳を前にして開業を決意。
資金集めの為、フリーランス医師として週5日の勤務。
週3日は同じメンタルクリニックにて外来、もう週1日はクリニックにて訪問診療、さらに精神科病院にて日当直を行なっている。年収に換算すると2200~2300万円程。
複数の物件を検討しながら、開業に向けて準備を進めている。


以上の事例を見てみますと、やむを得ない状況や常勤先を見つけるまでの繋ぎ勤務、また今後に向けての必要なフェーズという先生が多いようです。
メリットを十分に活かしている先生方は多いのです。

但しフリーランス医師というと、メリットやご自身の都合の良いところばかりに目が行きがちです。
ご自身で勤務をセーブ出来る為、負担を軽くしたい・ラクをしたいという理由だけで、安易にフリーランス医師という進路を選んでしまう先生もいらっしゃるようです。

フリーランス医師への選択は、今回紹介をさせていただいたようにメリットの裏に隠れているデメリットもよくご理解いただき、十分に検討するべきだと思っています。