【精神科への転科】転科ハードルやメリット・デメリット、精神科医として成功する方法

先生方は大学卒業後、今の専門科目にてご勤務を続けてこられたかと思いますが、ふと「このまま今の科が自分には向いているのだろうか?」と自問する事はありませんでしょうか?

医師の3~4割程が転科を考えた事があり、医師全体で1割程が実際に転科をすると言われる中で、【精神科医の転職相談室】では、実はこれまで「精神科に転科したい!」、「精神科を学ぶ必要がある!」、「精神科でやり直したい!」という精神科へ転科をお考えの先生方からのご相談を多数受けてまいりました。

そこで今回は、「精神科への転科について」の解説をさせていただきたいと思います。
将来的に精神科への転科をお考えの先生方が、転科知識や実際の転科事例を事前に知る事が出来れば、しっかりと転科について検討する事が出来ます。

そもそも何故、精神科へ転科を希望する先生が多いのか?

初めに転科を希望する先生方が何故そのようなお考えに至ったのかを、整理していきたいと思います。
まずは先生方の転科理由としては以下の通りです。
(過去5年のうち、弊社に相談にいらした先生方のご相談内容を抜粋しております。)

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■今後年齢を重ねるごとに手術は出来なくなる為、転科のしやすい精神科へ転科したい。
■専門科目を選ぶ後期研修の際に精神科と迷い、その時は違う科目を選択したが、改めて精神医療が気になり今後は精神科医の道を進みたい。
■今の科で将来像が全く浮かばない。自分には向いていない事が分かり、比較的以前から興味のあった精神科でオンオフの時間を作りながら働きたい。
■産業医をしていた頃に、あまりにもメンタル的に弱ってしまっている社員の方を診ているうちに精神科の必要性を感じた。
■今後高齢化が進むにあたって、認知症の患者様が増えていく事で精神科医としてのやりがいを感じた。
■近年AIの進出が進む中、精神科は医師として生き残れると考えた。
■今診ている科では精神疾患を持つ合併症の患者が多い為、総合医療という観点で精神疾患を診れなければ、自分一人で患者を治療する事が出来ない。
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以上を整理しますと、大きく3つにタイプ別に分ける事が出来ます。

「現実逃避型」は現在の勤務環境や状況が辛い、もしくは魅力を感じる事が少なく、やりがいを感じられないという状況の先生方です。
精神科への転科について、まだ迷いがあるのもこのタイプの先生方です。

「必要型」は、現在の勤務環境の中で精神分野の必要性を感じている先生方で、将来のご自身のなるべき医師像も明確で、精神科への転科についてはしっかりとした決意をお持ちです。
精神科での経験後には、元の科に戻るのもこのタイプの先生方です。

「興味型」は、元々学生の頃から興味があった等の理由の先生方が多く、現在の科で何かのタイミングでその想いが沸き上がってきた先生方です。
精神科への転科のお気持ちはある程度お持ちですが、転科後には精神科医として長年ご勤務を続けている先生方が多いです。

このような様々なお考え、理由(タイプ)の先生方がいることから、精神科への転科を希望される先生方は多くなっています。

精神科へ転科のハードルについて

次に精神科への転科について、実際に解説していきます。

精神科へ転科はしやすい!?

結論から言いますと、YESです。
理由の一つに元々の科目が活かせるという事があります。

元々の科が内科であれば、身体合併症の患者様を診る事が出来ます。
外科であれば骨折やナートの処置が出来ます。
皮膚科であれば、褥瘡の管理が出来ます。
麻酔科であれば、電気痙攣療法(mECT)を行なう際に麻酔をかけることが出来ます。

実際に過去の転科事例として、以下の科の先生方が精神科への転科を実現されています。

・内科 → 精神科
・麻酔科 → 精神科
・皮膚科 → 精神科
・小児科 → 精神科
・形成外科 → 精神科
・整形外科 → 精神科
・外科 → 精神科
・脳神経外科 → 精神科
・リハビリテーション科 → 精神科
・心療内科 → 精神科
・眼科 → 精神科
…etc

科目別割合は以下の通りです。

(※弊社へご相談いらした先生方(過去5年間)のデータをもとに算出しております)

精神科は精神単科病院も多く、他科の先生方がいない状況下では、さらに他科のスキルを持つ先生は歓迎されるケースがあるのです。

歓迎される元科目とは?

では「何科であっても歓迎されるのか?」「もし歓迎される科目はあるのだとしたら何科なのか?」が気になるところではないでしょうか?

上記のように他科のスキルを持つ先生は貴重ですが、強いて言うのであれば、身体面を診れる先生は歓迎されます。
過去の状況から内科や外科の先生は好まれる傾向にあります。

と言うのも、精神単科病院では必ずと言っていいほど身体面の合併症患者様がおります。
しかし精神科医師の多くは、身体面を診れる医師が少ない傾向にあります。
病院によっては内科医が非常勤含め全くいない、という事も珍しくありません。

そのような中で「身体の事で何かあればお任せください!」というような医師がいれば、病院としては大変助かるのです。
勿論、精神単科病院ですので、総合病院のような設備や環境はありません。
よって身体面を診るといっても、ある程度までしか出来ないというケースがほとんどです。

また近年、麻酔科の需要も精神科病院では高まっています。
それは電気痙攣療法という高い診療点数を算出できる、主にうつ病の患者様を対象とした治療法が確立されているからです。

電気痙攣療法には麻酔科の医師が欠かせません。
しかし麻酔科を非常勤や常勤として雇うには、給与面で合わない事が多く、電気痙攣療法を行ないたくても出来ない病院があります。
そんな時は麻酔科からの転科医師は歓迎されるのです。

精神科医へ転科をするなら何歳まで?

続いて、年齢にスポットを当ててみます。
実際に「精神科への転科は何歳まで?」というご相談を先生方から頂く事があります。

まずは過去5年の転科時の年齢割合を見てみます。

(※弊社へご相談いらした先生方(過去5年間)のデータをもとに算出しております)

40代までで全体の9割を占めています。

採用側である病院の受け入れ条件のハードルとしては、過去の実績として60代の先生の転科事例はありますが、実際には50代までがギリギリのラインです。
これは全国の精神科病院の採用担当者とのコンタクト実績によるものです。

実は転科は若ければ若いほど良いのです。
詳しくは下記の精神科へ転科するメリット・デメリットでも触れたいと思いますが、給与面等の折り合いを考えますと可能であれば30代前半までの転科が理想的です。

早くに方向転換が出来れば、その分早くから精神科の経験を積むことが出来ます。
採用側である病院としても、他科からのベテラン医師の経験は大変ありがたい反面、給与待遇に困ってしまったり、指導医が年下となる可能性も増す事(実際にそのような理由で断られてしまうケースもあります)から、早いに越した事は無いのです。

転科するメリット・デメリット

では、精神科へ転科するメリットとデメリットはどのようなものが挙げられるのか?
これを知らなければ転科をするか否かの判断は難しいかもしれません。
早速、見ていきましょう。
(上記と重複する内容が含まれます。)

精神科へ転科するメリット

■転科前の科目の専門性を転科後も活かす事が出来る。また精神保健指定医の取得後は精神科分野と転科前の専門があるという事で医療機関側から重宝される傾向が強い。
■残業やオンコール等の時間外勤務が他科と比べて少なく、オンオフしっかり分ける事が出来る。よって自身が高齢になっても勤務しやすい。
■当直を行なった場合、他科よりもゆったりした当直(寝当直)のケースが多い。
■今後の高齢化や現在の社会情勢から、患者が増えてきている事から増々需要が出る専門科目になる事が予想される。
■患者様とのコミュニケーションが重視される為、外来は他科よりもゆっくり1人の患者と向き合える。
■個々の患者様の心(脳)の問題の為、決まった治療法はなく、他科よりも先生独自の観点からの治療を行なう事が出来る。
■開業を考えた場合、他科に比べ初期費用が低い為、リスクが少ない。
■産業医としても精神分野の需要は増している為、精神科の経験は大いに活用できる。(企業が職員に行なうストレスチェックも必須となった為、産業医として精神科医が活躍できる場が拡大している。)

精神科へ転科するデメリット

■これまで多くの手術や救急等でバリバリ勤務してきた先生にとっては、物足りなさを感じる事がある。
■身体疾患を診るケースが減る為、身体管理スキルが落ちる可能性がある。
■転科出来る年齢が限られており、早ければ早い程良い。50代になると転科可能のハードルがかなり上がる。
■精神保健指定医の取得を希望する場合、3年の(常勤)精神科経験が必要。
■転科前の給与額にもよるが、転科直後は給与面の減額になるケースがある。(地域により変動あり。)
■精神単科病院は駅から離れているケースが多い為、通勤面で難がある可能性が出てくる。
■精神科の特徴や病院の方針もあり、紙カルテの病院がまだまだ多く、電子カルテに慣れている先生にとっては紙カルテに慣れる事も必要になってくる。

以上が考えられるメリット・デメリットとなりますが、先生方の環境や状況は様々ですので、先生によってはメリットの方が大きい、デメリットの方が大きいは正直あります。
ご判断が難しい場合は、精神科転職に詳しいエージェントか、精神科事情に詳しいお知り合いの先生に聞いてみるのも良いと思います。

>> プロの精神科コンサルタントに転科について相談する

精神科医へのニーズについて

次に精神科医師のニーズについて解説をしたいと思います。
「せっかく精神科へ転科をするにも、実際のところ精神科医師は市場的に求められているのか?」という事を気にする先生はいらっしゃるかと思います。

精神科医師は求められているのか?長く勤務出来るのか?

日本は超高齢化社会に突入します。
高齢化が進めば、認知症を初めとする疾患も増えます。
そして、一般企業では社員の方へのストレスチェックが行われるようになり、モラハラ、パワハラなどの言葉が頻繁に使われるような社会となっています。
そのような社会情勢の中で、これまでになく精神疾患は身近な疾患となっています。

また在宅医療という現場においても、これまでは訪問診療と言えば内科主体という考え方から、精神科専門の訪問診療クリニックができるに至っています。
さらに精神単科病院やメンタルクリニックだけではなく、総合病院やケアミックスの病院では精神分野の合併症の患者増加の為、在籍している医師の要望から、精神科医師を求める声が現場から上がってきています。

このように精神科医師のニーズは高まっています。

また精神科は、外科や一部の内科とは違い、特別な手技があるわけではなく、知識や経験年数がダイレクトに診療に活かせる科でもある為、先生が健康上問題ないのであれば長く働ける科でもあります。

オンとオフもしっかりしている事から、残業はほとんどなく定時で帰っている先生方が大半を占めています。
よって高齢になっても働かれている先生がいらっしゃるのです。
実際に高齢の精神科医は、他科よりも比較的多く、中にはご年齢が90代の先生もいらっしゃるほどです。

精神科医の勤務先について

では、精神科の先生方は普段どのような勤務先で働いているのかをお伝えします。
(精神科へ転科後すぐの勤務先ではありません。)
精神科医というと、精神科単科病院、もしくはメンタルクリニックにてご勤務されているイメージが強くあると思います。
実際には多くの精神科医師が精神単科病院や外来を主とするメンタルクリニックで勤務をしています。

しかし、上記の精神科医のニーズから、勤務先は広がっています。

■総合病院、ケアミックス病院、療養病院にて、リエゾン・他科コンサル・訪問診療。
■在宅クリニックにて、精神分野の施設往診や居宅往診。
■総合病院、ケアミックス病院にて、緩和ケア(メンタルヘルス)。
■企業にて、産業医として社員の方の健康チェック。
■矯正施設にて、矯正医官として被収容者の治療。

以上のように様々な機関で精神科医の先生方はご勤務されています。
精神科の経験を積んでいく中で、先生のご興味度合いやお考え、ご年齢、ご家族の状況によって求めるものは変わってきますので、それに見合った勤務先にベクトルを向けるのが良いかと思います。

転科後に精神科医として成功する方法

では、精神科医としてのスタートは、どのような病院でどのような経験を積むのがベターなのかを見ていきましょう。

まず精神科への第一歩として、病院選びは非常に重要です。
精神科医であれば、様々な疾患の患者様を診ていかなければなりません。
よって慢性期の患者様ばかりの慢性期病院ではなく、急性期~慢性期まで幅広い疾患の患者様がいる急性期病院でスタートを切るのが良いでしょう。

さらには急性期病院であれば、指導医の先生もいる為、指導を受ける事も出来ます。
最初から患者様を割り振られる事は無く、陪席をさせてもらうところから始まり、副主治医のような形で徐々に患者様を診ていくイメージです。

またそのような病院の良いところは、過去にも精神科未経験の先生方を一から指導した経験がある為、病院としてそのような風土があるという事です。
当然、不明な事が出てきた際には指導医の先生に聞けるような環境となっています。

転科と研修は違いますが、研修の時にも救急の来る病院で先生方はご経験を積まれたかと思います。
精神科であっても、急性期病院(24時間の受け入れ体制のあるスーパー救急病棟を持つ病院も含む)で精神科医としてのベースを作っておく事は非常に重要です。

そして、急性期の疾患をメインに診る事で、精神保健指定医の取得も見えてきます。
精神保健指定医の取得ができれば、病院での勤務際し様々な法的権限が与えられます。
身体拘束、医療保護入院や措置入院の判定なども指定医ならではの権限です。

この精神保健指定医は精神科の経験を積んだ精神科医という一つの証明であり、今後キャリアアップにもつながる国家資格でもあります。

転科後のキャリアアップ事例

最後に、弊社に転科のご相談にいらした先生方の、その後のキャリアアップ事例を紹介します。

事例1:男性・当時31歳の医師のケース

元々麻酔科を専攻していたが、激務の為、休職。
その後、美容クリニックで勤務を開始し勤務をしていたが、臨床への想いが断ち切れず、興味のあった精神科へ転科。
麻酔科の時と比較して、自分の時間も取ることが出来、オンオフの中で勤務を続けた後、無事に精神保健指定医の取得。
その後も転科した病院で指定医として勤務を続けている。

事例2:女性・当時28歳の医師のケース

外科医として大学医局に属していたが、プライベートの時間を作れず、また将来外科医としての自分の姿が見えずにいたが、そんな時に精神科に興味が湧く。
その後、スーパー救急病棟を持つ精神単科病院へ転職(転科)。
指定医の取得に向けて、日々指導を受ける身ではあるが、一日も早く精神科医として自立し、いつかは開業してみたいという願望を抱いている。

事例3:男性・当時42歳の医師のケース

消化器内科医として病院勤務していたが、精神疾患を合併している患者様が多く、非常勤で来る精神科医師頼みという状況から脱却する為、精神科への転科を決意。
スタート年収は下がったが、自分を最も評価してくれた精神科病院へ転職。
その後、精神保健指定医の取得をし、精神科も診れる内科医として総合病院へ転職。
仕事内容にも年収にも納得しながら、日々患者様と向き合っている。

事例4:男性・当時49歳の医師のケース

脳神経外科として手術を行なっていたが、今後は年齢と共に手技が難しくなってくる為、転科を検討。
当時は神経内科も検討していたが、元々脳からくる精神疾患について興味が強く、精神科への転科を決意。
その後、急性期病院の中でも比較的給与額の提示が高い病院へ転職し、合併症患者の身体面を診つつ、指定医取得に向けて症例を集めている。

事例5:女性・当時37歳の医師のケース

大学病院の皮膚科医として多忙な勤務を続けていたが、ご家族が精神疾患を患い、精神科について考え始める。
そして期間と時間を掛け将来について考え、自身が精神科医になる事を決意し、転科に向けて転職活動を行なう。
その後、ご家族のご状況や先生の考えに対し、共感を抱く院長(病院)と出会い転職。
日々精神疾患の患者と向き合いながら、精神科医としての経験を着実に積んでいる。

事例6:男性・当時29歳の医師のケース

整形外科医として手術を行ないながら、多くの外来患者を診ていたが、自身が術者に向いていない事に悩みを抱えていた。
そんな中、研修医時代に迷っていた精神科への転科を考えるようになる。
その後、知り合いの精神科医師に話を聞きながら、精神科への転科を決意する。
現在では精神保健指定医として勤務しながら、今後は自身にサブスペシャリティを付ける為にとして認知症をメインに診ていきたいと考えている。

事例7:男性・当時44歳の医師のケース

小児科医と勤務していたが、発達障害の子供が多く、もっと発達障害の子供を診れるようになりたいとの考えから、精神科への転科を決意。
精神科の中でも児童精神に興味がある為、その後、児童思春期症例も豊富にある病院へ転職。
将来的には児童思春期を専門にしたいという想いもあり、日々幅広い疾患の患者と向き合いながら、他の医師が行なっている児童思春期の専門外来にも陪席しながら経験を積んでいる。

事例8:男性・当時54歳の医師のケース

遺伝子研究の研究職としてこれまで長年勤務をしてきたが、研究の側面から精神科の臨床を行なってみたいとの意向が強くなり、精神科への転科を決意。
但し、体力的にハードな勤務は考えていない為、急性期病院の中でもかなり忙しい病院での勤務は難しい。
そんな中、じっくり患者に向き合える転科医師の受け入れ可能な病院の話があり、その病院へ入職。
その後、これまでの研究の観点は持ちつつ、日々外来と病棟の患者と向き合っている。


以上、如何でしたでしょうか?
精神科への転科について先生方の参考になれば幸いなのですが、勿論個別のご相談もお受けしておりますので、お気軽にご相談ください。