精神科医師として、今後先生はどのような働き方をお考えでしょうか?
今精神科医としてご勤務されている先生方、将来的に精神科へ転科をお考えの先生方、これから精神科へ進もうとお考えの研修医の方、それぞれのお立場やご状況によって考え方は異なると思います。
そのようにご状況は違うものの、精神科医としてご勤務なさるのであれば、必ず付いてくるもの、それは精神科医師としての収入(給与)です。
精神科医の年収事情やキャリアアップについて知識があれば、将来設計や現在の勤務状況・環境との比較についてリアルに考える事が出来ます。
実際に弊社リノゲートが運営する【精神科医の転職相談室】へは、これまで給与・年収に関するご相談や転職相談が多く寄せられてきました。
そこで今回は臨床勤務医としての「精神科医の年収事情とキャリアップ」の解説をさせていただきたいと思います。
精神科医の平均年収と他科との比較
まずは精神科医の平均年収を見ていきましょう。
※ここでは厚生労働省の賃金構造基本統計調査(2018年)によるデータと、これまで弊社へご相談いらした先生方(500人を対象)のデータを基に紹介いたします。
職場のタイプ別・年代別・地域別の平均年収
施設区分別・年代別・地域別の平均年収(弊社データによる)についてお伝えします。
まず「施設区分別」から見ていきます。
代表的なのは病院とクリニックですが、実は精神科医師の90%以上は病院もしくはクリニックで勤務をしています。
よって今回は「病院」「クリニック」の2つの平均年収について見ていきます。
(※弊社へご相談いらした先生方(500人を対象)のデータをもとに算出しております)
クリニック勤務の方が病院勤務より平均年収にして250万円強、高いというデータが出ています。
但し、クリニック勤務は病院勤務よりも休憩時間を含む拘束時間が長い傾向があります。
また体質的・方針的にもクリニックの売上は、主に外来もしくは訪問診療の数に頼らざるを得ない状況の為、どうしても売上志向が強くなります。
先生によってはこのようなクリニックのカラーが合わない先生もおりますので、一概にクリニックの方が良いとは言い切れません。
続いて、年代別の平均年収を見ていきます。
(※弊社へご相談いらした先生方(500人を対象)のデータをもとに算出しております)
20代は研修医の期間もある為、低い傾向にありますが、30代になりますと大学医局を出て、さらには精神保健指定医の先生方の割合が増える為、20代の医師に比べ、大幅に平均額がアップしています。
さらには30代後半から50代後半までが精神科医としての給与ピークがくる事から、40代~50代は他の年代に比べ高くなっています。
また60代となると、定年後の嘱託常勤としてご勤務されている先生方も出てくる為、下降していきます。
70代となりますと、常勤でフル勤務している先生方も少なくなる為、さらに下がるというデータが出ています。
では、地域別の平均年収を見ていきましょう。
(※弊社へご相談いらした先生方(500人を対象)のデータをもとに算出しております)
給与相場の低いエリアとしては大都市圏が中心で、東京都の23区内、愛知県の名古屋市周辺、大阪府の大阪市周辺、京都府の京都市周辺、福岡県の福岡市周辺は、提示される年収が比較的低い傾向にあります。
理由としては、医師の採用時に充足傾向が強いエリアという事があります。
住んでいる医師も割合として多くなる為、医療機関側も好条件で募集をしなくても医師が集まる傾向にあるのです。
また大学医局の強いエリアについては、フリーの医師との給与格差を無くす為、給与設定が低い医療機関が目立ちます。
ちなみに、大都市圏とそれ以外のエリアでは年収が大きく異なる為、過去には転職時に全国エリアフリーの医師が引越しをして年収が倍近くになった事例も複数あります。
【精神科医の転職相談室】に掲載されている求人情報は地域ごとに検索できるため、各地域の年収相場の参考にできます。
他科との年収比較
ここまで、精神科医師の平均年収についてお伝えしてきました。
では、他科と比較すると精神科の給与額は高いのか、低いのかを気にされる先生もいらっしゃるのではないでしょうか?
ということで、ここからは精神科と他科の平均年収を比較していきます。
まず厚生労働省の賃金構造基本統計調査(2018年)によると、医師(全科)の平均年収は約1312万円というデータが出ています 。
では弊社の方へご相談、お問い合わせを頂いた時点での先生方の平均年収を見てみますと、1393万円というデータが出ています。
(研修医の方も含まれています)
このことから弊社調べで、精神科医の平均年収は全国全科平均よりもやや高いという事が言えます。
もう少し掘り下げていきますと、全科の中で精神科は、外科系(一部の内科系:循環器内科)より低く、耳鼻科や皮膚科、放射線科、小児科より高い傾向があります。
但し、精神保健指定医をお持ちの先生の年収相場は、(社会情勢から)ここ数年で以前よりも上がってきていますので、今後は、より高い方の科目としての位置づけになると思われます。
実際に、弊社にご相談にいらっしゃる精神保健指定医の先生の場合、1,500万円~2,000万円での転職事例が一番多いゾーンであり、転職後の平均年収は1,681万円というデータも出ています。
精神科医の仕事内容と医療機関側から求められる先生の特徴
ここからは、精神科医の仕事内容や求められる精神科医師像について説明します。
精神科医の仕事内容
精神科の先生でしたら御周知の通りですが、病院勤務であれば外来(初診、再診)、病棟管理(主治医制、病棟医制)というのが主な業務内容です。
さらに厚生労働省管轄の精神保健指定医は、病院勤務において、必須に近い資格であり、措置入院、医療保護入院、退院制限などの判定や診察を行なう際に必要になります。
また精神保健指定医は、身体拘束や保護室への隔離などの患者様の行動制限を行う際にも、特定医師や非指定医の先生よりも法的な権限が強くなります。
患者様の疾患として挙げられるのが、統合失調症、認知症、気分障害圏、神経症圏などです。
中にはアルコールや薬物などの依存症の患者様もおり、専門病棟を持つ病院もあります。
また患者様の年代については様々で、社会情勢から高齢者(中でも認知症)の患者様は増えていますが、児童思春期といった若年の患者様も一定数おります。
この児童思春期の患者様については、外来での診察時間が長くなる傾向にあり、経験値が豊富な医師が少ない為、受け入れを行なっている病院は少ない状況です。
ちなみに、近年では訪問診療(居宅訪問、施設訪問)のニーズも高くなっており、外来、病棟と併せて、訪問診療の枠が設けられる事があります。
訪問診療というと、内科分野がメインのように思いますが、地域からの依頼で精神科(主に認知症)のみの内容となっていますので、身体面が苦手な先生でも安心して訪問診療に入っていけます。
クリニック勤務であれば、大きく分けて外来と訪問診療という内容です。
外来に関しては病院の外来に比べ、比較的軽症の患者様が来院します。
入院に直結するような重症患者様は少ない事もあり、1日で多くの患者様を診る事をクリニック側から求められる傾向にあります。
クリニックは病院のように入院料を算定できない事から、外来数や訪問診療の件数のみがクリニックの運営に直結している為です。
(デイケアにて安定した売上を上げるクリニックも多くなりましたが、数としてはまだまだ外来数、訪問件数 頼みのクリニックが多数です。)
また差別化を図っているクリニックもあり、特定の疾患に特化した運営を行なっているクリニックもあります。
今やメンタルクリニックは駅前には当たり前にある状況で、各クリニックも生き残りをかけて必死なのです。
クリニック勤務での訪問診療については、施設往診と居宅訪問があります。
ドライバーや看護師と共に車で訪問し、精神疾患を持つ患者様の対応を行ないます。
施設往診のみのクリニックもあれば、居宅のみや施設と居宅混合のクリニックもあり、内容は様々です。
上記のように訪問診療といってもまだまだ内科が主流ですが、精神科ニーズも高まっており、精神科患者様のみを対象とする訪問診療のクリニックも出てきています。
ちなみに、精神科は他科(特に外科系)と比較して大きく違う点があります。
それはオンオフという働き方です。
急な呼び出しや日中帯のオンコールは比較的少なく、慢性期の患者様が多い病院であればあるほど、その件数は比例して少なくなります。
民間病院での勤務ではほとんど残業もなく、定時には帰宅する先生が殆どという状況です。
このような事を書いてしまうと「精神科はラク」という勘違いを生みそうですが、オンオフしっかりしていて、プライベートの時間も大事にしたい先生にとってはイメージに近い科目という事が言えます。
医療機関側から求められる精神科医師像
【精神科医の転職相談室】では過去に多くの先生方の転職をサポートさせていただき、面接の同席や条件交渉を行ない、各医療機関から本音の話を聞いてきました。
僭越ながらその経験や情報を基に、医師像という観点から医療機関側に求められる医師の特徴についてお伝えしたいと思います。
まず近年の採用状況から、医療機関側から「良い先生なので是非とも当院へ入職いただきたい!」と言わせてしまう先生方には共通点があります。
それは「柔軟性」「協調性」「お人柄の良さ」の3つです。
柔軟性 | 急に当直枠が空いてしまった際の相談を快く聞いてもらえる先生や、普段の勤務とは異なる事態が起きた際にも対応する事が出来る先生。 |
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協調性 | 精神科のチーム医療を理解し、病院の方針や他の先生方の見解を尊重しながら、コメディカルとも上手く連携が取れる先生。 |
人柄の良さ | 他の先生方や、コメディカル、事務員とも良好な関係でコミュニケーションが取れる先生。 |
以上が面接で感じられる先生は、医療機関側から即オファーが来ます。
勿論、精神保健指定医をお持ちの先生や、経験豊富な先生は好まれるのですが、内面的な部分で求められるのはこの3つです。
特に協調性と人柄については、近年の採用状況から、医療機関側がかなり気にされているポイントです。
「協調性がある」「人柄が良い」という概念は様々で明確な線引きは難しいのですが、これまでの面接状況や採用担当者からのお話から、医療機関は組織だからこそ、輪を乱すような感じを受ける先生やこだわりが必要以上に強い先生は、採用を見送られてしまいます。
また患者様側の立場からすると、精神科医は患者様だけではなく、そのご家族とも長く深く関わる事になる為、高圧的な印象を受ける先生や冷たい印象の先生よりも、温和でコミュニケーション能力の高い先生が求められる傾向があります。
精神科医がキャリアアップするための方法
精神科医師としてキャリアアップするには、どのようなルートがあるのかをお伝えしたいと思います。
まず精神科医師のキャリアアップの登竜門として、精神保健指定医の資格取得があります。
指定医を取得すると年収にして大凡200~300万程は上がるという弊社データも出ています。
ちなみに、(精神科の先生であれば御周知の通りですが)指定医の取得までは、初期研修終了後からの精神科選択や転科での精神科選択から精神科経験3年以上と、規定の症例実績がある事で、精神保健指定医の申請レポートを厚生労働省へ提出する事が出来ます。
レポート提出は毎年6月と12月の年2回で、提出後 1年程の期間を経て合否が出ます。
精神保健指定医の管轄は厚労省(国)です。
また各学会認定(管轄は各学会)の専門医と指導医、また認定医があります。
これもキャリアップとしては 重宝される事があります。
日本精神神経学会という最もポピュラーな学会の専門医・指導医であれば、一定の評価を得ることが出来ます。
また、精神科の中でも日本認知症学会などのサブスペシャリティ的な学会の専門医や指導医は、さらに重宝される事があります。
例えば認知症学会の専門医であれば、認知症専門の病院(認知症治療病棟あり)や認知症疾患医療センターに認定されている病院などでは重宝される傾向があります。
また日本児童青年精神医学会の認定医をお持ちであれば、児童思春期の患者様が多い病院やこれから児童思春期の患者様の受け入れを行ないたいというニーズのある病院で重宝されます。
これらは精神科の中でもさらに専門分野を持っていて、その症例に強い先生という証明でもあり、病院側としてもそのような先生がいる事で看板を上げる事が出来、患者様の増加を図れるからです。
転職時に先生の専門性とそのようなニーズのある病院の出会いがあれば、給与の高額提示につながります。
また年次でも昇給をする病院はあります。
大幅な年収アップのタイミングは、その病院内で指定医を取得した後のタイミングですが、年次(≒勤続年数)でも徐々に年収が上がっていく病院はあります。
精神科医のキャリアアップ事例
最後に、弊社にご相談いただいた先生方で、キャリアアップされた事例を紹介します。
事例1:男性・当時29歳の医師のケース
後期研修から精神科を選択し、その後3年で指定医申請に必要な症例を集め、無事に精神保健指定医を取得。
年収が1200万円から指定医取得後に1500万円へアップ。
また指定医取得から1年後には、ご家族との時間を優先すべくQOLの高い病院へ転職。
転職時に提示を受けた年収は1600万円。
事例2:男性・当時41歳の医師のケース
もともと学生の頃から精神科には興味があり、40歳を過ぎたタイミングで他科から精神科へ転科を決意。
転科当初給与は下がったものの、その後、精神保健指定医を取得。
年収が1400万円から指定医取得後に1600万円へアップ。
取得後はさらに給与の高い病院へ転職し、1800万円へアップ。
事例3:女性・当時36歳の医師のケース
指定医として大学医局に属していたが、お子様を産んだタイミングで転職を決意。
育児休暇後に民間の精神単科病院へ転職。
給与額は1300万円から、転職時にも据え置きの1300万円だったが、週4日勤務の当直免除という条件で入職。
その後、年次と共に僅かではあるが昇給があり1330万円程で現在は勤務。
事例4:男性・当時56歳の医師のケース
これまでは単科病院での副院長として勤務していたが、とある病院の院長候補の話があり転職。
初めは院長職ではなく、副院長の役職にて入職。
給与額は1800万円から、転職時(副院長職)に2200万円へアップ。
約半年の引継ぎ等を行ない、院長に就任。
院長就任後は年収が2500万円へアップ。
現在は病院の経営や職員の体制強化に力を入れている。
事例5:女性・当時41の医師のケース
これまで公的の医療機関で(指定医として)勤務していたが、QOLと給与額の向上を理由に民間病院への転職を決意。
転職後は、引き続き急性期患者様と向き合うスタイルは変わらないが、オンコールはほとんどなく、オンオフしっかりという勤務環境。
給与額は1000万円から、転職時に1500万円へアップ。
事例6:男性・当時49歳の医師のケース
精神一般病院にて幅広い疾患の患者様を診ていたが、もっと児童思春期の患者様を診たいという想いから転職を決意。
その後、児童思春期外来の開設を検討している病院の話があり、週1コマの児童思春期の専門外来からスタートする内容で転職。
給与額は1600万円から、1700万円へアップ。
事例7:男性・当時38歳の医師のケース
指定医の取得後はメンタルクリニックにて勤務していたが、家庭の都合で転居をする事になり、これまでと同様に外来中心のクリニックへ転職。
これまではとにかく数を診なければならず、飛び込みの患者様も受けていたが、転職後は予約制という事もあり、ある程度セーブが出来る環境にてオンオフしっかりとした環境で勤務。
給与額は1750万円から、転職時には1800万円へアップ。
冒頭でも申し上げたように、先生それぞれのお立場やご状況によって考え方や求めるものは異なります。
そして、必ずしも上記のような年収事情やキャリアップが、どの先生にも該当するという事はありません。
ただ上記については、先生方の今後のキャリアップの目安なり、参考になるのであれば幸いと思っております。
【精神科医の転職相談室】では、先生方のキャリアアップに繋がる転職のご相談を承っております。
些細なご相談でも結構ですので、お気軽にご連絡ください。