ここ最近、東京や大阪、福岡などの大都市圏を中心に、精神科医の転職市場は「売り手市場」から「買い手市場」へと大きく舵を切りつつあります。
この状況変化については、これまでも度々お伝えしてきました。
大都市での勤務を希望する先生が多く、都市部へ医師が偏在していることが主な要因ですが、最近ではこれに加え、「人口減少」がもたらす地殻変動の足音を耳にする機会が非常に増えています。
象徴的なのが地方の医療機関です。
地域の人口減少が加速するにつれ、患者数も並行して減少しています。
それに伴い病棟の稼働率が低下し、収益を維持できなくなった多くの医療機関が、病床数を削減するいわゆる「ダウンサイジング(規模縮小)」へと踏み切っています。
医療機関の規模が縮小すれば、当然ながら医師の定数も削減されます。
結果として、それまで勤務していた病院からあふれてしまう医師が出てくるのです。
実際、次の就職先が見つからずに困り果て、弊社へご相談に来られる先生のパターンが非常に多くなっています。
こうした事態が繰り返されるなか、精神科医の働き口が日に日に狭まっているのが厳しい現実です。
では、このような時代背景を考えたとき、精神科の先生方にはどのような立ち振る舞いが求められるのでしょうか。
結論から申し上げれば、時代や環境がどう変わろうとも「勤務先から常に必要とされる存在であり続けること」が極めて重要になると考えています。
これからの時代、医療機関から「どうしてもあなたに来てほしい」「あなたにいてほしい」と真に求められる精神科医になるためには、どのような資質が必要なのでしょうか。
私は、次の3つの要素が鍵になると確信しています。

第一に挙げられるのは、「境界線を越えて連携できるコミュニケーション力」です。
精神科医療の現場は、看護師、公認心理師、精神保健福祉士、作業療法士などが一丸となってあたる「チーム医療」の最前線です。
医師という立場に固執せず、他職種の専門性をリスペクトし、意見を吸い上げる柔軟性こそが、チームの治療効果を最大化します。
さらに、総合病院などでは他科からの「コンサルテーション・リエゾン(身体疾患に伴う精神症状のケア)」の需要が急増しています。
他科の医師やスタッフの困りごとに迅速かつ的確に応えられる精神科医は、病院全体から絶大な信頼を寄せられるはずです。
第二に、「時代のニーズを捉えた専門性のアップデート」です。
精神医学の基本である丁寧な問診や精神療法の技術を磨くことは大前提です。
その上で、現代社会が抱える課題――不登校や発達障害などの児童・思春期精神医学、超高齢社会における認知症対応、あるいは精神科救急や依存症治療など、地域や病院が今まさに悲鳴を上げている領域に目を向け、専門性を拡張していく姿勢が欠かせません。
第三に、「病院と地域を結ぶハブとしての視野」を持つことです。
精神科の患者さんが真に回復し、社会で自立していくためには、院内の治療だけで完結することはありません。
地域のクリニック、福祉施設、行政、就労支援機関などとの密な「地域連携」が必要不可欠となります。
病院のベッドを守るだけでなく、患者のその後の生活までを見据え、地域のネットワークへと適切につなぐコーディネーターとしての視点を持つ医師は、医療機関にとって極めて価値が高い存在です。
医療機関から必要とされる精神科医とは、孤高の専門家ではありません。
患者さんの痛みに寄り添うのはもちろんのこと、共に働くスタッフの言葉に耳を傾け、社会のニーズに合わせて自らを変化させ続けられる医師です。
自らの知識と技術を周囲のために開き、柔軟な姿勢で臨床に臨むこと。
その実直な積み重ねの先にこそ、どの医療機関からも重宝される「かけがえのない存在」への道があるのだと確信しています。