精神保健指定医は精神科医にとって重要な国家資格であり、措置入院や医療保護入院の判定などの権限が与えられます。
しかし、この資格を目指す中では、事前には想像しにくい「まさか…」の障害が潜んでいることもあります。
そこで今回は、指定医取得までに直面しがちな想定外の出来事や注意点を整理し、先生方のスムーズなキャリア形成にお役立ていただければと思います。
■家庭や健康など私生活の「まさか…」
指定医を目指す3年間は経験を積む大切な時期ですが、予期せぬ変化が起こりえます。
例えば、親の介護が必要になったり、妊娠や出産で本人が現職を続けられなくなること、配偶者の転勤で家庭ごと移動せざるを得ないこと、さらには突然契約を更新しないと告げられることなどが挙げられます。
こうした状況では、まず現職の指導医である先生や事務長などの管理部門に相談するのが第一です。
多くはないですが、柔軟な勤務調整や時短勤務が認められるケースもあり、早まって退職しなくても問題が解決する場合があります。
それでも解決が難しい時は、転職活動を始める準備が必要です。
■症例集めの落とし穴と病院選び
指定医取得には精神科常勤として3年以上の経験の中でさまざまな症例を集めることが求められます。
2019年からの制度では必要症例が8例から5例に減ったものの、口頭試問が導入され症例以外の知識も問われるため、症例数が減った=楽になった訳ではありません。
そのため、急性期病院など症例数が豊富で指導体制が整った環境を選ぶのが得策ですが、実際には病棟医制で慢性期の担当になってしまい、必要症例が集まらないケースもあります。
また、スーパー救急がある病院でも指導医が多忙で相談ができない、過去の指定医合格者が少なくサポート体制が弱い、といった「まさか…」も起こりえます。
病院や転職コンサルタントが「指定医の取得が可能」と謳っていても、転職者の前歴や他院での経験に依存した実績である場合もあるため、言葉の裏付けをしっかり確認することが重要です。
■指導体制の確認は必須
これまでの相談事例から、指定医を目指す病院選びでは以下のポイントが重要です。
・急性期か慢性期か:病棟医制による慢性期病棟担当になってしまうと急性期症例を診る機会が少なく、症例が集まらないリスクが高まります。
・指導医の人数と風土:指導医が多く、質問しやすい雰囲気があるかどうか。忙し過ぎて放置される環境では経験が偏ります。
・取得実績と合格率:これまでに多くの指定医を輩出しているか、ケースレポートの添削や口頭試問対策がどれだけ行われているか。
・「指定医取得可能」の根拠:過去の取得者が他院で症例を集めていた可能性もあるため、病院がどのように症例を提供しているか具体的に確認する。
■省エネ勤務はリスクを高める
近年は週4日勤務や当直免除など所謂“省エネ”で指定医を取得したいという先生方の声も一部あります。
しかし指定医取得までの3年間は精神科医としての土台を築く大切な時期であり、簡単に済ませることは長い医師人生の中で肩身の狭い思いをすることにもなりえます。
夜勤や急性期対応を避けて症例数だけ集めても、イレギュラーな症例や急性期への対応力が不足し、指定医として働き始めてから苦労するのはご自身です。
また、周囲の医師や指導医から「指定医を目指しているのに週4日勤務で当直をしていない」と評価が下がることもあり、職場での信頼関係が損なわれる恐れもあります。指定医取得後は勤務形態や給与条件の幅が広がるため、取得までの期間はしっかり経験を積むことが長期的に見て有利となります(長期視点が重要)。
■口頭試問での「まさか…」
口頭試問ではレポートに書いていない症例や法的知識についても問われ、知識が十分でないとパスできないケースもあります。
近年は口頭試問の合格率が9割以上と高いものの、合格者は「幅広い症例を経験し、精神保健福祉法や関連法規をしっかり勉強した」ことを共通点として挙げています。
つまり、日々の実務から得られる経験や知識の広がりが一層重要になっているのです。
■予期せぬ事態への備えと対策
「まさか…」に備えるには、事前に情報を集め、柔軟な姿勢で準備することが重要です。
家庭の事情や健康問題が起こった場合は、すぐに職場に相談し、必要であれば早めに転職活動を開始します。
病院選びでは症例の種類や指導体制、過去の取得実績を必ず確認し、「指定医取得可能」という言葉の根拠を自分で把握することが重要です。
また、資格取得まではフルタイム勤務で経験を積み、当直もこなし、急性期の対応力を磨くことで、指定医として勤務後の「まさか…」を減らせます。
~~最後に~~
精神科医の指定医取得は、患者さんの人権を守る上で重要な資格であり、省エネと呼ばれる勤務によって取得するものではありません。
家族や自身のライフイベント、病院の体制不足、制度変更など様々な事態が起こりえますが、事前に情報を集め、適切な病院選びと充分な経験を積むことで乗り越えることが可能です。
転職や病院選びで迷った際は、内部事情や最新情報にも詳しい、精神科医の専門コンサルタントである私ども【精神科医の転職相談室】までお気軽にご相談ください。
