精神保健指定医は精神科医にとって重要な国家資格であり、取得後はキャリアの幅が広がります。
必要年数と必要症例、そして口頭試問、そのようなご苦労があり指定医を取得されたが故に「これからは自分の好きな働き方をするぞ!」と思う先生方も多いのではないでしょうか?
しかし取得後すぐの転職は慎重に進めないと後悔するケースもあります。
当サイト【精神科医の転職相談室】は、過去多くの指定医の先生方から「指定医取得後はどんな進路が良いか?」というご相談を頂いております。
そこで今回は、過去に受けた相談内容や実際の転職事例を基に、指定医取得後の転職について私どもの見解を共有させていただきたいと思います。
■失敗談から学ぶ:取得直後の安易な転職
指定医の取得直後に急性期病院を辞め、慢性期病院や総合病院(リエゾン)、クリニック、産業医などにすぐに舵を切ってしまった結果、指定医業務の経験値が浅い/もしくは積めていないことによって、再度転職をしなければならない時に選択肢が広がっていないという状況があります。
実際に先生方から転職時に「指定医としての業務に自信が持てない」というご相談を頂くことがあります。
こうしたケースでは、指定医を取得したものの急性期症例を診る機会がなくなり、経験が非指定医時代と変わらず、急性期病院への再転職が難しくなるのです。
また急性期病院ではなくとも、救急輪番日、身体拘束や医療保護入院のある比較的慢性期に近い病院であっても、当然指定医としての業務をおこなっていただけるという期待がありますので、その期待に応えられないかもしれない…というのは指定医としては肩身が狭くなってしまいます。
指定医の取得直後に関しては、ご家庭の都合などや特別なご事情がない限りは、現職の急性期病院に残り指定医としての経験を積むか、新たな急性期病院に転職をする、という選択肢をお勧めいたします。
■サブスペシャリティを付ける
指定医資格を持つ精神科医の先生方は多いですが、多くなればこそ、差別化のために専門性を高める動きも広がっています。
指定医として一定の経験を積んだ後に、認知症や児童思春期、依存症など特定の疾患に注力する病院やクリニックへの転職で、サブスペシャリティを付ける先生もおります。
専門性はプラスαであり、磨くことで先生ご自身の強みを打ち出しやすくなり、転職活動を有利に進められる可能性を高めたり、将来のご開業にも活かせます。
■転職事例
以下のように指定医取得後の進路は多岐にわたります。
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・児童思春期の専門性を付けるケース(30代 男性):指定医取得後、児童思春期症例が多い病院へ転職し、週4日勤務・当直週1回・年収1500万円で専門外来の指導を受けながらご勤務をされています。
・給与アップを目指したケース(40代 男性):取得した病院で一定期間勤務した後(御礼奉公後)に、慢性期寄りの病院に転職し、週5日勤務・当直週1回・年収2000万円でご勤務されています。
・子育てと両立したケース(30代 女性):急性期病院で指定医経験を積んだ後、子育てを機に慢性期病院に転職し、週4日勤務・当直免除・年収1300万円というプライベート重視のご勤務をされています。
・介護と両立する非常勤ケース(30代 女性):母親の介護のため常勤先を持たず、複数の病院やクリニックを掛け持ち週3日勤務し、時給10,000円~12,000円程でスキルを維持されています。
・ゆったり勤務を選んだケース(50代 男性):外科から転科し指定医取得後、慢性期病院へ週4日勤務・当直免除・年収1700万円で転職。家族との時間と趣味の時間を大事にご勤務をされています。
・将来的な開業を意識したケース(30代 男性):指定医と専門医取得後、外来メインのメンタルクリニックの院長職へ転職し、週4.5日勤務・年収1800万円で将来の開業に備えています。
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■ご自身に合った転職を
指定医取得後の転職は、取得した資格を活かしながら長期的なキャリアを築くための大切なステップです。
安易に急性期から離れてしまうことで、苦労して取得した指定医の資格が活かせず、肩身の狭い思いをされたり、取得後の経験値から結果的に選択肢が広がらないのは非常にもったいないことです。
ただ先生お一人お一人によってご事情は様々です。お考えも様々です。
転職をなさるのは先生ご自身ですので、私どもは先生のご意向やお考えを尊重させていただきながら、あくまで上記についても頭の片隅に入れておいていただければというスタンスです。
精神科医として、指定医として、是非先生方にはライフステージに合わせた選択肢を持っていただきたい(選択肢を広げていただきたい)と強く思っております。